2016年5月27日

のみ


以前から木工をやっていて「のみ(鑿)」が欲しいと思うときがしばしばありました。特にほぞ接ぎしたいときで、凸部分は他の工具を使ってまだ何とかなるのですが凹部分はのみが無いと何ともなりません。


そこでのみを購入することにしたのですが、ホームセンターを覗いても何が良いのかわかりません。せっかく買うのならそれなりのものを買いたいと思い調べてみました。 ところがなかなか難しいのです。普段私が接しているスパナなどのハンドツール類とも電動ドライバのような電動工具とも違った世界であることがわかりました。

例えばAmazonで「のみ」で検索するといろいろ出てくるのですが「利五郎」とか「光次郎」とか「菊弘丸」とか日本酒の名前みたいなものばかり出てきます。大きく毛筆で文字が書いてある桐箱に収まっていてメーカー名もよくわかりません。

調べて行くうちに分かったのですが「のみ」には一部「西洋のみ」というものもありますが日本独自と言えるくらい国産が多い(これはある意味うれしい)のです。そして国産の鑿は現在でも職人が手作りしているものが多く、当然高価であるということです。日本は木造家屋でほぞ接ぎは一般的なのでどんな大工も鑿を使いますが、外国では木を扱う場合でもほとんど電動工具だけを使うようです。石の文化と木の文化の違いでしょうか。ドイツなんかは木工が盛んなイメージがあるのですが。

個人的にはホームセンターの安物は嫌ですが工芸品のような高価なものが欲しいわけではありません。その中間である、信頼できる大手メーカーが量産しているようなものが欲しいのですが見つからないのです。

調べて行くうちにいろいろわかってきました。聞きかじりの知識なので間違っているかもしれませんが。



①西洋鑿と日本鑿の違い

外観の違いは刃の裏が凹んでいることです。裏は削った木材に密着しますので面積が広いと摩擦が大きく余計な力が必要になってしまうからです。西洋鑿にはこの凹みがありません。


②鑿の種類

・追入鑿:最も一般的な鑿です。

・叩き鑿(厚鑿):金槌で叩いて使います。追入鑿よりも厚く丈夫にできています。刃の幅も大きい物が多く構造物の造作に適しています。

・丸鑿:文字通り刃が丸くなっています。丸い穴があけられますので大工仕事よりも工芸作品に多く用いられます。

・突き鑿(透き鑿):金槌で叩くのではなく手で押して使います。狭い部分の木材の表面を整える時などに用いられます。


③刃のサイズ

尺貫法で表されます。1寸=1/33mです。鑿は5厘~3寸まであるということですから約1.5mm~90mmということになります。 サイズは本当に千差万別ですが8寸≒24mmのものが最も一般的のようです。


④鋼の材質

・安来鋼(ヤスキハガネ)
古来島根県は良質な砂鉄の産地であり踏鞴製鉄が盛んで和鋼(わこう)と呼ばれます。その伝統を島根県安来市の日立金属が引き継ぎ安来鋼が開発されました。

・白紙 青紙 黄紙 銀紙
日立金属が出来上がった鋼を区別するために色の付いた紙を目印につけ、それが鋼の名前の由来なっています。 JIS SK(炭素工具鋼)材を元に不純物を低減させたのが黄紙(2号)、そこからさらに不純物を低減させたのが白紙(2号)、そこからタングステンやクロムを添加したのが青紙(2号)です。 「青紙スーパー」なんてのもあります。銀紙はステンレスですのでこの流れとはちょっと別です。

・1号 2号 3号
2号を基本として、そこから炭素量を増やしたものが1号、減らしたものが3号となります。炭素量を増やせば硬さは増しますが靱性は下がります。

・ハイス鋼
炭素鋼より靱性に優れ薄く作れます。そのため材料への食い込みが良く、堅木や集成材の加工に向いています。炭素鋼のように砥石で研ぐことはできませんがグラインダーで研ぐことができます。炭素鋼をグラインダーで研ぐと熱により「焼き戻し」され切れ味が落ちます。


⑤生産地

新潟県三条市(越後三条)、長岡市、兵庫県三木市などが有名です。産地によって「すり合わせ」と呼ばれる首の部分の形状(段差)が少し違うようです。



最初「安来鋼白紙2号」とか聞いて何の呪文かと思いましたが、だんだんとわかってきました。わかってきたところで実際の商品選びです。いろいろ物色していると「角利産業(KAKURI)」というメーカーが目に留まりました。新潟県三条市にある工具メーカーで「ホームセンター以上、職人以下」というちょうど私が望んでいるレベルだと思えました。(失礼な言い方になってすみません)

角利産業のオフィシャルサイトに製品カタログがあるので眺めていると気に入ったものがありました。「鍛流のみ」というものです。


鑿は見た目が「和風」のものがほとんどなのですが、これは洋風でシンプル、スマートな外観です。メーカーも「日本の伝統技術に裏打ちされた洋風タイプの木工用のみです」とうたっています。2006年のグッドデザイン賞を受賞しているのも頷けます。 


帆布のケースが付属しています。これも良いデザインです。



刃の裏が凹んでいないことからも洋風だということがわかります。


何より軟鋼と鋼を重ねあわせた多層鋼地金の模様が美しいです。木の木目のような気もするし幾何学的な模様にも見えます。ダマスカス鋼の包丁と同じなのでしょうか?詳しくないので良くわかりません。


実際の所は見た目だけで大した意味は無いのではないかと思っています。

さすがにセット品を買えるだけの財力は無いので19mmの一本だけにしました。一般的には刃の幅は7~8分(21~24mm)が最も使用頻度が高いと言われています。私の用途だと細めが良さそうなので19mmにしました。鑿の幅より狭い穴は掘れませんので、小は大を兼ねるという判断もあります。通常は21mmの下は18mm(6分)となりますので19mmというのはちょっと特殊です。この辺も西洋鑿の特徴かもしれません。



いずれ研ぎもマスターしたいと思っています。


買ったばかりでまた使っていません。物によっては新品だと刃が付いていないものがあるそうですが、これは多分そのまま使えると思います。それさえわからない初心者ですので物の良し悪しは判断できません。



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